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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)5467号 判決 1983年9月26日

第一事件原告(選定当事者。以下単に原告という。) 今市ミチコ

同 臼井静子(選定者は別紙選定者目録記載のとおり。)

右訴訟代理人弁護士 後藤昌次郎

同 山岡正明

右訴訟復代理人弁護士 岩倉哲二

第二事件原告(以下単に原告という。) 丹治ケイ子

右訴訟代理人弁護士 後藤昌次郎

同 山岡正明

同 岩倉哲二

第一事件、第二事件被告(以下単に被告という。) 月岡久江

右訴訟代理人弁護士 堤淳一

主文

一  被告は、原告臼井静子に対し金七〇万円、同今市ミチコに対し金七五万円、選定者鈴木貞子に対し金三九五万円、同山中夕起子に対し金一七五万円、同渡辺博子に対し金一五〇万円、同臼井亮子に対し金七〇万円、同伊藤マサに対し金六五万円、同大野禧美子、同鎌田保子、同山中敏子に対し各金六〇万円、同山中鈴子に対し金四五万円、同磯野真に対し金四〇万円、同牛島繁に対し金三五万円、同滝田幸子、同日岡ユキ、同小路恭子、同森好美、同芦名幹子、同田野崎良子、同竹内芳子、同飯島由美子、同三武郁子、同山本チエ、同高橋きよ子、同下山恵美子、同関口孝子、同川崎フジ子、同松尾基子に対し各金三〇万円、同渡辺梅子、同原美津枚に対し各金一〇万円及びこれらに対する昭和五一年一二月五日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  被告は、原告丹治ケイ子に対し、金三〇万円及びこれに対する昭和五二年七月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一事件、第二事件ともこれを二分し、その一を原告ら、その余を被告の各負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(第一事件について)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告ら及び選定者らに対し、別紙請求金額一覧表「請求金額」欄記載の各金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(第二事件について)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告に対し、金六〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件講の仕組

訴外内村健一は、「天下一家の会第一相互経済研究所」(以下第一相研という。)及び「財団法人天下一家の会」(以下天下一家の会という。)を主催し、その事業としていわゆるねずみ講と称する無尽講類似の組織を運営・管理してきたものであるが、右無尽講類似のもののうち本件で問題となる「中小企業相互経済協力会」(以下本会という。)の仕組はつぎのとおりである。

会員は、それぞれ二名の新会員を加入させ、新加入会員もそれぞれ二名の新会員を加入させ、順次二倍宛いわゆるねずみ算式に会員を増加させていく義務を負う。

新加入会員は、入会に際し、第一相研に対し金七万五〇〇〇円の入会金を、天下一家の会に対して金二万五〇〇〇円の寄付金を支払うほか、第一相研の指定する先順位の会員に対し金五〇万円を直接送金することが義務付けられており、これにより本会の会員資格を取得する。

会員相互における送金システムでは、別紙組織図の各世代に属する者のうち奇数番号の者が七代先順位の会員に金五〇万円を送金し、偶数番号の者が二代先順位の会員に金五〇万円を送金するものであり、各会員は、二代後の会員(孫会員)四名中二名から各金五〇万円合計金一〇〇万円宛、七代後の会員一二八名中六四名から各金五〇万円合計金三二〇〇万円宛の送金を受けてこれを取得することができる。

2  本会を利用した被告の不法行為

(一) 事件の経過

(1) 原告臼井静子(以下原告臼井という。)は、昭和五〇年一一月末、友人の紹介により被告と知り合ったが、同年一二月、被告に誘われて第一相研熱海保養所における同人主催の忘年会に出席してからは友人として交際を持つようになった。

(2) 被告は原告臼井に対し、知り合った当時から本会のいわゆる六〇万円コースへの入会を勧誘していたが、原告臼井は第一相研のいわゆる一〇万円コースの無限連鎖講に加入した経験があり、子孫会員を作っていくことが困難であり、自分が出資した元金でさえそれを回収することが難しいことを知っていたので右勧誘には応じないようにしていた。

(3) しかし原告臼井は、同年一二月末に至り、被告から「自分の知人・友人は皆実力者揃いでこの会に入会したがっているけれども待たせてあるから先に入会しなさい。子は作らなくても六〇万円さえ出せばあとは面倒はみてあげます。」と聞かされるに及び、ハイクラスの人間との交際が広そうにみえる被告が保証してくれるのであれば大丈夫ではないかと考えるようになり、同年一二月二五日本会に一口加入することとした。

(4) その後、被告は原告臼井の兄弟や友人・知人に対しても面倒をみてあげると称して積極的に働きかけ始めたので、原告臼井は不安になり、昭和五一年一月初旬頃「そんなに多勢の面倒を本当にみられるのか」と尋ねたところ、被告は、「自分は公団に顔がきくが、今度烏山周辺の地主が公団に土地を買いあげてもらったお金で本会に一人一口から三口加入する話が九分九厘ついているし、そのほかにも私の友人・知人がたくさん入会することになっているから絶対に心配はいりません。今六〇万円出せば三ヶ月後には必ず一〇〇万円にしてあげます。私が責任をもってあなたの孫会員を作りますからあなたはお金さえ私に渡してくれれば何もしなくてもよいのです。」と答え、地主からはどのようにして金を集めるのか、という問に対しても、「公団が土地代金を支払う際に入会金を差し引いて入会手続をすることになっているのだ。」と答えて原告臼井を安心させた。

(5) 原告臼井は右の話によりすっかり被告を信用するに至り、自らも数口を追加加入するとともに、被告の求めに応じて友人・知人を被告に紹介するようになったところ、被告は、昭和五一年一月から同年二月にかけて原告臼井から紹介を受けた者らに対し、直接、あるいは原告臼井等を介して間接に前(4)記載の内容の話をして本会に加入するよう勧誘し、原告ら及び選定者ら(以下総称して原告らという。)は被告の話を信用して、被告に対し直接に、あるいは原告臼井等を介して間接にそれぞれの加入口数に応じた入会金を交付し、本会に加入するに至ったのであるが、その詳細は別紙本会への加入に至る経過及び加入口数一覧表(一)、(二)記載のとおりである。

(6) 被告は、原告らから前記金員の交付を受け取るや、一人が二人、二人が四人を紹介するという第一相研が定めた正規の方法を採らず、自己をピラミッドの頂点に位置させ、原告らを自己の子孫会員に配列するという八代下った子孫会員までの送金・入会系図を勝手に作成し、原告らから交付を受けた金員の大半を子孫会員からの送金分として自ら直接取得した。

(二) 被告の責任原因

(1) 主位的主張

被告は、本会のシステムを利用して原告らから金員を騙取せんと企て、真実は孫会員を入会させる確実な見込がないのにあたかも確実な見込があるかの如く装い、昭和五〇年一二月末ころから同五一年二月ころにかけて、原告らに対し、直接、あるいは原告臼井らを介して間接に前(一)(4)記載の内容の虚偽の事実を申し向け、原告らをして被告に金六〇万円を交付すれば三か月後には必ず一〇〇万円になって返ってくるものと誤信させ、もって前(一)(5)記載のとおり被告に対しそれぞれの加入口数に応じた金員を交付させ、本会に加入せしめたものであるから、被告は、民法七〇九条により、原告らが被った後記損害を賠償すべき責任がある。

(2) 予備的主張

仮に右事実が認められないとしても、被告は前(一)(4)記載の被告の話が虚偽であり、原告らが被告の右言を誤信していたことを知悉していたのであるから、原告らが直接、あるいは原告臼井を介して間接に被告に対し本会への加入を申し込み、前(一)(5)記載の金員を交付した際には、真実を告知すべき義務があったのにこれを告知せず、かえって原告らの錯誤に乗じてこれを騙取せんと企て、前(一)(6)記載のとおり被告にとって都合のよい送金・入会系図を作成して原告らから前記金員の交付を受けたのであって、被告は、民法七〇九条により、原告らが被った後記損害を賠償すべき責任がある。

(三) 損害

原告らは、被告の言を信じ、前(一)(5)記載のとおり被告に対しそれぞれの加入口数に応じた金員を交付して本会に加入したところ、原告らのうち原告臼井ら一部の者はたまたま被告が作成したピラミッド(系図)の上位に配列されたため、子孫会員から若干の送金を受けて損害の一部を回復することができたが、その余の原告らは何ら金員の送付を受けることができず、被告に交付した金員はそのまま被った損害となったものであるが、その詳細は別紙請求金額一覧表記載のとおりである。

3  よって、原告らは被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、別紙請求金額一覧表請求金額欄記載の各金員及びこれらに対する本件訴状送達の日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実を認める。

2(一)  同2(一)の事実のうち、原告臼井と被告が第一相研熱海保養所における忘年会で同席して以来頻繁に交際するようになった事実及び被告が原告らから主として原告臼井を介して原告ら主張の金員を受領した事実(但し選定者山中夕起子については九口分金五四〇万円のみ)は認めるが、その余の事実は否認する。

(二) 同(二)、(三)の各事実を否認する。

三  被告の主張

1  被告は、昭和五〇年一〇月ころ、訴外島信正から同人が茨城県北相馬郡藤代町の土地約七〇万坪を日本住宅公団に買い上げてもらうべく、右土地の地主らに対し売渡しの交渉(いわゆる地上げ)をしていること及び関係地主の代表格である訴外川端が地主としてまとまって本会に加入したいとの希望を話していることを聞くに及び、原告臼井に対し、昭和五一年一月ころ、住宅公団に土地を売り渡した地主らを本会に加入させることができれば好都合である、とその期待を述べたことはあるが、子孫会員を作ることは本会の会員の義務なのであるから、被告としては原告らに対し、原告らには孫会員を入会させる義務を免除するとか、自分が責任をもって孫会員を作る等との発言をしたことはない。本件は、右公団の話に興味をもった原告臼井が他の原告らを勝手に勧誘してまわったにすぎないものであり、被告は、原告らの求めに応じ、住宅公団の話が決まったときは大量の地主が本会に加入してくる可能性があるとの話をしたことはあるが、請求原因2(一)(4)記載の内容の話はしていないのであるから、被告の言動は何ら欺罔行為を構成するものではない。

2  系図の作成もこれを実質的に行ったのは原告臼井である。本会は人と人とのつながりを基本としており、系図の作成にあたっては子孫会員を勧誘する都合も考えなければならないので、原告らの系図への配置を決定するにあたっては原告らを紹介した原告臼井の意向をまず第一に尊重した。そのために、最初は原告臼井に鉛筆書きで系図を作成してもらったのであり、被告はそれをボールペンでなぞって完成させたにすぎず、右系図は決して被告の都合によって作成したものではない。

3  仮に、被告の言動が欺罔行為を構成するとしても、被告が直接に勧誘行為を行ったのは原告らのうち一一名の者にすぎないのであって、その余の原告らは原告臼井、同伊藤マサ、同原美津枝、同白井亮子及び訴外飯島八重子らが勧誘行為を行ったものであるばかりでなく、被告が直接に勧誘をした者についても、その勧誘の席にはたいていの場合原告臼井が同席し、金員の交付もそのほとんどは原告臼井を介して交付されており、直接被告に交付されたものは少なく、本件では原告臼井を始めとする多くの原告らの自由な行為が介在し、その関与のもとに行われたものであるから、被告の勧誘行為と原告らの本会への加入、被告に対する金員交付との間には相当因果関係がない。

四  抗弁

1  不法原因給付

(一) 本会はいわゆるねずみ講といわれる無限連鎖講であり、組織原理そのものからみて終局的には必ず破綻すべき運命にある極めて射幸性の強い反社会的組織であるところ、原告らは、この反社会性の強い本会のシステムを利用して第一相研の宣伝する多額の金員を取得せんと目論んだものであり、自らの後に加入し、おそらくは組織の破綻によって被害を被るであろう多くの地主の損害により利得を博そうとしたのであって、原告らの本会への加入はそれ自体動機が不法であるといわざるをえず、被告に対する金員交付は不法原因給付を構成するから、右金員は返還を要しない。

2  過失相殺

仮に被告の言動が不法行為を構成するとしても、一度に何百人もの地主が本会に加入してくるとの被告の請求原因2(一)(4)記載の発言を安易に信じたのは極めて迂濶であり、原告らの右過失は本件損害賠償の算定にあたって十分斟酌されるべきである。

五  抗弁に対する認否

抗弁1、2の事実はいずれも否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  当事者間に争いのない事実

請求原因1の事実、同2(一)の事実のうち、原告臼井と被告とが昭和五〇年一二月第一相研熱海保養所における忘年会で同席して以来交際するようになった事実及び被告が原告らから原告ら主張の金員(但し選定者山中夕起子については九口分金五四〇万円のみ)を受領した事実については当事者間に争いがない。

二  本件の経過

当事者間に争いのない事実、《証拠省略》を総合すると本件の経過として次の事実を認めることができる。

1  原告臼井は昭和五〇年当時皮革工芸の教室を開き教えていた者であり、同年一一月末、友人の吉田セツ子に紹介されて、赤坂で洋裁店「オートクチュール月岡」を経営していると称する被告と知り合い、同年一二月同人の勧めにより第一相研熱海保養所における忘年会に出席してからは、友人として頻繁に付き合いをするようになり、被告は原告に有名人との交際や事業を数多くして来た話を聞かせていた。

2  被告はそのころ第一相研の六〇万円コース(本会)の親元をしており、原告臼井にもぜひ本会に加入するよう勧めたが、原告臼井は第一相研の一〇万円コースに入会した経験があり、子孫会員の勧誘が困難であることを熟知していたので、六〇万円コースは自分の手に負えるところではないとこれを断っていた。しかし、昭和五〇年一二月下旬、被告から、「自分には有力な知り合いが多数おり、その人達から本件に加入させて欲しいと懇願されているが札を渡すのを待たせてある。今お金を出せば孫会員までは責任をもって面倒をみてあげるから先に入りなさい。」と強く説得されるに至り、本会の仕組上子孫会員が増えることは被告にとっても有利なことであるし、女性とはいえ手広く事業を行っており、交際範囲も広いようにみえる被告が保証してくれるのであれば大丈夫ではないかと考えるようになり、同年一二月二五日、弟の山中叶名義で本会に一口加入し、その費用として金六〇万円を被告に交付した。

3  被告は、原告臼井を本会に加入させると、次は原告臼井の周囲の者にも勧誘を開始し、同月末ころ、同人の姉妹である選定者山中鈴子及び同山中敏子に対し、原告臼井の姉妹について面倒をみてあげるとして、原告臼井に対するのと同様の話をして本会に勧誘したので、

(一)  選定者山中鈴子は、同月三一日、本会に一口加入し、その費用として金六〇万円を被告に交付し、

(二)  選定者山中敏子は、同月三〇日同人名義で、同月三一日山中敏路名義及び山中裕吾名義で各一口本会に加入し、その費用として合計金一八〇万円を被告に交付した。

4  昭和五一年に入ると、被告は原告臼井に対し、有力な友人はまだ沢山いるから大丈夫だ、あなたの姉妹だけでなく友人の面倒もみてあげると勧誘したので、原告臼井は被告が何故そのように面倒をみてくれるのか、そのように多数の者の面倒を本当にみることができるのかと不安になり、その点を被告に質したところ、被告は同原告に、「実は、烏山の土地を公団が買い上げることになっており、その地主達二百数十名が四月末には一人一口から三口本会に加入する話が九分九厘決まっているのです。今六〇万円出せば三ヶ月後には必ず一〇〇万円にしてあげます。あなた方は子孫会員を勧誘する必要はありません。」と答え(以下本件公団の話という。)、さらに、「自分は癌になり死に直面したことがあるが、その時自分にも子どもがあるし、今後の人生は一人でも多くの人の役に立ちたい、福祉的なことをしたいと考えたのです。」と話したため、原告臼井はこの話に感動し、被告をすっかり信用するに至った。

5  そこで、原告臼井は自らもさらに一三口本会に追加加入するとともに、以後は被告の勧めに応じ、その姉妹、友人、皮革工芸教室の教え子等に本件公団の話をして被告を紹介し、それらの者もまたその知人に本件公団の話を伝えたところ、原告らのうちにはかつて第一相研の主催する無限連鎖講に加入した経験を持つ者もいたが、多数の者が被告の言を信じて本会に加入することとなった。その経過は次のとおりである。

《中略》

6  被告は、原告臼井らから3、5記載の金員の交付を受けると、まず、第一相研の研修員から配布を受けていた信託講系図(以下系図という。)に、一部の者については原告臼井にその事情を尋ね、鉛筆で該当部分にその氏名を記載させたりしながら入会者を系図上に配列させていき、もって自己を頂点とする系図を完成させ、次いで、昭和五一年一月下旬から数回にわたり第一相研及び天下一家の会に入会金及び寄付金を一括して送金する方法により本会への入会手続をすませたが、会員相互における送金については、被告は本人名義のほか母親や妹等の名義で多数本会に加入していたので、原告臼井らから交付を受けた金員の大半は、他の会員に送付することなく、被告が直接取得した。

7  原告らのうちでも、原告臼井ら一部の者は、比較的早く本会に加入したので、系図上においても比較的上位に位置することができ、何口かについては先輩会員として他の会員から送金を受けることができたが、送金を受けた者の氏名、口数及び金額は次に記載するとおりである。

氏名

口数

金額

臼井静子

一四口

七〇〇万円

山中鈴子

三口

一五〇万円

山中敏子

六口

三〇〇万円

山中夕起子

五口

二五〇万円

今市ミチコ

三口

一五〇万円

鈴木貞子

一口

五〇万円

渡辺梅子

二口

一〇〇万円

白井亮子

二口

一〇〇万円

原美津枝

二口

一〇〇万円

牛島繁

一口

五〇万円

伊藤マサ

一口

五〇万円

磯野真

三口

(但しうち一口は

磯野隆恵名義分)

一五〇万円

下山恵美子

一口

(但し下山望名義分)

五〇万円

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

なお、選定者原幾雄、同磯野ゆき、同磯野隆恵、同磯野花子、同磯野真美、同磯野真紀、同三浦理子、同高橋義雄、同燧まもる、同下山望、同高橋貢、同関口久男については、これらの者が被告に本件公団の話をされ、自ら出資して本会に加入したことを認めるに足りる証拠はなく、これらの者は他の選定者らが本会に加入する際その名義を利用したものにすぎないと認定せざるをえない。

三  そこで、以上の事実を前提にして被告の責任原因の有無につき判断する。

1  被告が昭和五〇年暮、原告臼井、選定者山中鈴子及び同山中敏子に対し、「自分には有力な知り合いが多数おり、それらの者から本会に加入させて欲しいと懇願されているが札を渡すのを待たせてある。今お金を出せば孫会員までは面倒をみてあげるから先に入りなさい。」と述べて同人らを本会に勧誘し、翌昭和五一年に入ると右の話を具体化し、「実は烏山の土地を公団が買い上げることになっており、地主達二百数十名がそのお金で四月末までに本会に加入する話が九分九厘決まっている。今六〇万円出せば三ヶ月後には必ず一〇〇万円にしてあげます。子孫会員を勧誘しなくても孫会員までは責任をもって面倒をみてあげます。」と述べて多数の者を本会に勧誘したことは先に認定したとおりである。

2  しかし、烏山の土地を公団が買上げる計画が存在していたことを証するに足りる証拠はない。即ち、《証拠省略》を総合すれば、烏山に存在する訴外島信正は、昭和五〇年ころ茨城県北相馬郡藤代町営和田地区及び押切地区の土地(以下本件土地という。)を日本住宅公団に買い上げてもらおうと考え、右土地の地主らに対し土地売渡しの承諾を求める交渉を開始し、地主の中にはこれに応ずる者もいた事実を認めることができるが、これも単に地上げと言われる売渡承諾の下交渉にすぎず、しかも公団との関係では、昭和五〇年三月ころ島が本件土地買上げを依頼に出向いた際、本件土地は市街化調整区域であるからこれが市街化区域となる見通しがつかない限り土地買上げ計画の対象として考えることはできないと明確にこれを断られている事実を認めることができるのであって、この話は何ら具体性を有するものとは言えず、また《証拠省略》によれば被告も右事情を承知していたとみるべく、他に被告の友人が多数本会に加入してくる具体的事実を証するに足りる証拠もないから、1記載の被告の話は虚偽であるといわざるをえない。

3  してみると、被告は本会のシステムを利用して原告らから金員を騙取しようと企て、公団の本件土地買上げ計画はいまだ具体化されておらず、従って、その地主達を本会に孫会員として入会させることの確実な見込がなかったにもかかわらず、これがあるかの如くに装い、原告らに対し、自分には有力な知り合いが多数いるから孫会員までは責任をもって面倒をみてあげると称し、1記載の虚偽の事実を申し向け、もって原告らをして金六〇万円を交付すれば三ヶ月後には必ず金一〇〇万円になって返ってくるものと誤信させ、本会に勧誘して前記各金員を交付させたものであると認定することができるから、以上の事実によれば、被告は、民法七〇九条により、詐欺による不法行為責任を負うと解するのが相当である。

四  続いて因果関係の有無につき判断する。

1  先に認定したとおり、原告らのうち、選定者下山恵美子、同田野崎良子、同三武郁子、同山本チエ、同森好美、同小路恭子、同松尾基子は、原告臼井、選定者原美津枝及び訴外飯島八重子から被告が本件公団の話をして多数の者を本会に勧誘していることを聞いて本会に加入したのみであり、そこに被告の直接の勧誘行為を認めることはできない。また、先に認定した事実及び《証拠省略》によれば、原告らのうち多数の者は原告臼井によって被告を紹介されたのであるが、その勧誘の席には大抵原告臼井も同席し、金員の交付も多くの場合は原告臼井を介して行われた等の事実を認めることができ、これらの事実によれば、本件不法行為は被告によって行われたものではあるが、そこには多くの原告の関与があったというべきである。

2  しかし、《証拠省略》によれば、被告は、原告らに本件公団の話をした際、「多数の地主が入会してくるのだからまだ大丈夫だ、あなた方の友人で本会に入る人はいないか、今のうちなら面倒をみてあげる」と申向けて再三友人、知人の紹介、加入を求め、原告臼井、選定者原美津枝及び訴外飯島八重子らは右被告の意を受けて前記勧誘行為を行ったのであり、これは被告の意図しかつ容認するところであったから、原告らのうち被告から直接勧誘行為を受けていない者があったとしても、それらの者の本会への加入と金員の交付は被告の本件欺罔行為によるものと認定するのが相当である。

3  原告臼井らが金銭の授受等に携わった点についても、前認定のとおり、最終的に金員を受けとり、新加入者を系図上に配列し、第一相研、天下一家の会への入会手続、先輩会員への送金手続等を取り仕切ったのはすべて被告なのであるから、事案を全体として見たときは、原告臼井らは被告の手足となり、窓口的な仕事を補助したにすぎないというべく、これらの行為は被告の不法行為の成否には何ら影響を及ぼすものではない。

五  そこで、損害について判断する。

以上の如く、原告らは被告の欺罔行為により本会に加入したものであって原告臼井らが本会に加入した際その費用として被告に交付した金員は、それを被告が取得したか否かに関わりなく詐取されたものとしてすべて損害になると解されるが、先に認定したとおり、原告らのうち一部の者については他の会員から送金を受け、損害を一部回復しているのであるから、その部分についてはこれを控除するのが相当である。

ところで、選定者原美津枝、同磯野真、同下山恵美子、同高橋きよ子、同関口孝子については、先に認定した被告への交付金員額が請求金額を上回っているが、それは、これらの者は、本会への加入口数のうち本人名義のもののみを請求している趣旨と解せられるから、右損害額の計算に当っては、これらの者が送金を受けた金員のうち他人名義の分については請求外の金員として損害から控除しないのが相当である。

以上の考慮のもとに原告らの損害金額を計算すると別紙損害金額一覧表記載のとおりとなる。

なお、選定者原幾雄、同磯野ゆき、同磯野隆恵、同磯野花子、同磯野真美、同磯野真紀、同三浦理子、同高橋義雄、同燧まもる、同下山望、同高橋貢、同関口久男につき損害が認められないことは先に認定したとおりである。

六  次に不法原因給付の抗弁につき判断する。

1  一般に、無限連鎖講は、終局的には破綻すべき性質を有するにも拘わらず、いたずらに関係者の射幸心をあおり、加入者の大多数に経済的損失を与えるものであり、今日では「無限連鎖講の防止に関する法律」(昭和五三年法律第一〇一号)がそれに関与することを加入行為も含めて禁止していることからも明らかなとおり、それが違法な存在であることはいうまでもない。

2  しかし、昭和五一年当時において、ねずみ講は主催者側のする救け合い運動という宣伝もあって一般にはそれが反社会性のある組織であるとの意識が低かったばかりでなく、一般会員は加入しても子孫会員を勧誘することが難しく元金さえ回収できないで結局被害者に終わる者が大部分であり、一般会員が宣伝にのって無限連鎖講に加入することは、たとえそれが反社会的行為と評価されるとしても、その違法の程度は低いというべきである。そして、本件においては、先に認定したとおり、原告らは被告の利益誘導行為に基づいて本会に入会したものであるところ、被告の右行為は無限連鎖講のシステムを利用した詐欺行為を構成するのであるから、このような当事者間においては、たとえ原告らの本会への加入行為が反社会性を有するとしても、なおこれと対比して被告の側における違法性は著しく大きいと評価すべきであり、本件では民法七〇八条の適用はなく、原告臼井らの被告に対する本件金員給付は不法原因給付には当らないと解するのが相当である。

七  最後に過失相殺につき判断する。

一般的にみて無限連鎖講において子孫会員を勧誘することが困難であることは周知の事実であるところ、先に認定したとおり、原告臼井らは、土地が売れた金で地主が二百数十名も本会に加入してくるので、自ら子孫会員を勧誘する必要はなく、金六〇万円を被告に渡せば三か月後には金一〇〇万円になって戻るという話を、その真偽を確かめることもせず軽々にこれを信じたのであるから、原告臼井らの右対応は一口六〇万円もの金員を要する本会への加入の際にとる態度としては極めて迂濶であるといわざるをえず、原告臼井らの右過失は損害額の算定につきこれを斟酌すべきものと解するのが相当である。

ところで、前述のように原告らのうちにはかつて第一相研の主催する無限連鎖講に加入したことのある者とない者とがおり、子孫会員勧誘の困難さの認識は一致していなかったばかりでなく、被告から本会へ勧誘された態様も様々であるが、大量の地主が公団に土地を買ってもらった金で本会に加入してくるため、子孫会員の勧誘が不要であるという話を安易に信用したという点においてはその本質は同等であり、このような場合には過失相殺の割合もすべて同一にするのが相当である。

而して、当裁判所は、本件の場合諸般の事情を考慮して原告らの過失割合を五割と判断する。

八  結論

以上のとおりであって、第一事件については、原告らの請求は、原告臼井静子、同今市ミチコ、選定者鈴木貞子、同滝田幸子、同日岡ユキ、同小路恭子、同森好美、同芦名幹子、同田野崎良子、同竹内芳子、同牛島繁、同大野禧美子、同飯島由美子、同三武郁子、同山本チエ、同高橋きよ子、同渡辺梅子、同下山恵美子、同関口孝子、同原美津枝、同川崎フジ子、同松尾基子、同磯野真、同鎌田保子、同伊藤マサ、同山中鈴子、同山中敏子、同白井亮子、同渡辺博子、同山中夕起子に対し、それぞれ、損害額一覧表「過失相殺後の損害額」欄記載の各金員及びそれぞれに対する不法行為の後である昭和五一年一二月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却し、第二事件については、原告に対し、金三〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五二年七月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 南新吾 裁判官 野﨑薫子 藤本久俊)

<以下省略>

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